シンポジウム

東北作業療法学会ー日本老年療法学会
ジョイントシンポジウム

中等度・重度認知症に対して作業療法士のできること
 

大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻
田中 寛之

 
 認知症を呈す多くの疾患は進行性であり, 現在のところ根治的な治療薬は確立されていないため, 認知症者の増加に伴って中等度・重度認知症も増加している。この段階に至ると基本的ADLにも障害が出現しはじめ行動心理症状(BPSD)も増悪する。そのため, 我々は重症化を予防し, 意義のある活動ができる限り長く続けることができるように支援する必要がある。意義のある活動に従事していただくことは, 進行期段階においてもQOLを向上させる重要な要因の一つでもある。しかしながら, この段階においては, 病態評価の難しさから残存する認知機能に合わせた各活動の選択までの評価プロセスが確立されているとはいえず, 臨床家の経験値に委ねられており, 非薬物的介入の成果についても十分に示されていない(Na, et al., 2019)。
 介入の成果が十分に示されていない理由としては, 研究の数の少なさ以外に様々な要因が考えられるが, 進行期段階にとっての適切なアウトカムメジャーが考慮されていなかったこと, そのほか, 既存の介入研究のデザインでは介入中の対象者の言動や状態に関する評価が考慮されていなかったことなどがあげられる。通常, 介入研究では, 介入プログラムを毎回遵守することが求められるが, 進行期段階ではさまざまなBPSDの影響により, 介入に対する取り組み方(Engagement)が対象者によって異なることがよく経験される。そのため, Engagementが対象者間で一様ではないことを考慮し, 介入前後の変化だけでなく, Engagementとその関連要因までも評価したうえで介入効果に言及する必要があるといえる。このような背景から, 我々はEngagementの評価尺度やアウトカムメジャーになりうる中等度・重度認知症に焦点をあてた認知機能検査, QOL尺度など複数の尺度を開発し, 主に評価の視点から, 臨床応用を試みてきた。
 そして, 昨年度からは介入の視点から新たな試みを開始した。 中等度・重度認知症のADLやBPSDが介護者によって日々行われる生活介助や日常会話場面におけるケアの質によっても大きな影響を受けるため, 我々はケア実施の際の介護者の接し方・内容に改めて着目している。現在, これまで暗黙知とされてきたより良い接し方・ケア内容の知見を具体的に蓄積し, 即時的に実践に生かすことができるシステム作りを開始した。我々が進めている研究は(株)介護サプリと連携し, 具体的な接し方・ケア方法を場面ごとにAI等の力を借りて即時的に導き出すという点で独自のものとして取り組んでいる。
 今回のシンポジウムでは, 中等度・重度段階の認知症者にとって既存の評価法の適応と限界を見直し, どのように活動を選択してその参加を促し, 効果を評価するのか, より良い接し方とはどのようなものなのか, これまでの我々の知見をもとに述べさせていただきたい。当日はさまざまな議論ができることを楽しみにしている.