教育講演

教育講演

地域共生社会に資する作業療法士の育成‐新しい生涯学修制度と作業療法士のキャリア形成について‐

一般社団法人日本作業療法士協会 
理事 教育部部長 竹中 佐江子

 
 地域共生社会は,制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて,地域住民や地域の多様な主体が参画し,人と人,人と資源が世代や分野を超えてつながることで,住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会を指している. 地域共生社会では,障害の有無や年齢にかかわらず,住民一人ひとりが,地域社会を構成する一員として日常生活を営み,様々な活動に参加する機会が確保されるような専門的支援が求められる.このことから作業療法士は,活動と参加を支援する知識と技術を有する専門職としてこれからの地域共生社会に貢献するために生涯学び続ける必要があると言える.
 日本作業療法士協会(以下,当協会)では,1998 年度の「生涯教育単位認定システム」に始まった卒後の教育制度は,2003 年に「生涯教育制度」へと改定し,現行制度の基盤となった.2023年度には4回目の改定が行われたが,当制度の概要には,「協会員がこの制度を活用し,知識,技術・技能を向上させ,よりよい作業療法を社会に提供するとともに,人格の陶冶を目指すことを期待します」と記されている.このように時代が変わっても揺らぐことのない理念のもと,本制度を活用することにより作業療法の質を向上させ,その結果として対象者,国民の生活・健康に寄与する役割が期待されているのである.
 当協会では,2025年4月に新たな生涯学修制度をスタートさせるべく,準備を重ねてきた.前述のとおり,生涯教育制度は複数回の改定を経て,会員の自己研鑽とキャリア形成を支援する制度として運用してきたが,作業療法士に求められる地域ニーズ,職域の広がりに対応するため,また就業形態やライフスタイルの変化にも対応しうる制度への変革が求められている.新たな制度では,現行制度における認定作業療法士・専門作業療法士取得促進のために,登録作業療法士が導入される.登録作業療法士は,認定作業療法士・専門作業療法士の前段階に位置づけ,2年間の前期研修,3年間の後期研修を修了し5年毎の更新とする.登録作業療法士は,より多くの作業療法士がキャリア形成に役立てるべく5年を目途に取得できるよう準備を進めている.
 同時に,制度構築の段階で作業療法士に必要な力を4つの力として言語化し,キャリア形成の柱となるクリニカルラダーを作成した.ラダーは作業療法士が身につけるべき能力として「生活行為のニーズをとらえる力(問題発見力)」「生活行為向上に向けてセラピーする力(問題解決力)」「生活行為を達成するために協働する力(リーダーシップとマネジメント力)」「成果・結果を吟味する力(研究力,教育・指導力)」を示している.さらには,多様化する現場ニーズに対応するために,座学研修としてeラーニングのコンテンツを3つのカテゴリに分類した.また,新制度では円滑に受講できるようLMS(Learning Management System)のICT活用も進めていく.
 地域共生社会に資する作業療法士を育成していくには,教育制度だけで完結させることは出来ず,実践の場があってこそ学びの機会が得られると考える.本制度が一人でも多くの作業療法士に活用され,会員一人一人のキャリア形成に役立ち,そして何より学び続けるモチベーションを向上させるためには,協会だけではなく,都道府県作業療法士会,養成校,そして臨床現場である医療機関,地域の介護・福祉施設,それらを運営する民間企業等との連携は必要不可欠となる.さいごに, 5年後,10年後を見据え,地域で選ばれる作業療法士の育成とともにキャリア形成の一翼を担うことができるよう,新しい制度を皆様とともに創り上げていきたいと思う.